本研究の目的は、n3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む魚を多食する日本人において、食事摂取および血清の脂肪酸組成と抑うつとの関連を明らかにすることである。対象は500名余の職域集団である。脂肪酸摂取量の推定には妥当性が検証されている食物摂取頻度調査票を、またメンタルヘルスの評価には国際的に用いられているGeneral Health Questionnaire及びCenter for Epidemiologic Studies Depression Scaleを用いた。交絡要因として、職場ストレスを含む事項についても尋ねた。健康診断項目として別途得られている生活習慣や検査結果などのデータを健康診断実施機関より入手した。血清中の脂質をFolch法にて抽出した後、薄層クロマトグラフィーにて遊離脂肪酸分画を分離し、ガスクロマトグラフィーで測定した。 データを分析したところ、食事摂取からの脂肪酸との関連では、統計的に有意ではなかったものの、n3系多価不飽和脂肪酸の一種であるα-リノレイン酸の摂取量が多い群で抑うつ症状が少ない傾向がみられた。血清中の脂肪酸組成との関連ではα-リノレイン酸(組成割合)と抑うつ症状(特に日本人用の抑うつ判定基準を用いた場合)との統計学的に有意な負の関連を認めた。DHA・EPAといった他のn3系多価不飽和脂肪酸や、n6系多価不飽和脂肪酸との関連は認めなかった。その他、男性では葉酸摂取が抑うつ症状と予防的に関連していることを見出した。 今回の職域疫学研究から、脂肪酸組成が抑うつと予防的に関連していることを示唆するデータが得られた。一般集団において血清中の脂肪酸組成を測定し抑うつとの関連を調べた研究は日本では始めてであり、食生活改善によるうつ病予防の可能性を支持する疫学的知見を提供した。
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