本年度は、下記2課題を実施した。 (1)うつ症状測定のためのCAT(Computerized-Adaptive Testing)システムの開発 CES-D抑うつ尺度および4ポジティブ項目改訂項目の計24項目に対して、多値型データのIRT解析を基に、CATシステムの初版を開発した。回答選択肢数4に対応させるため多値型のIRTモデル(Modified Graded Response Model)を適用し、各項目の選択肢間の閾値(位置パラメータ)および識別力パラメータを推定した。CATアルゴリズムは制約付きベイズ法による項目選択に基づき、CAT終了条件はθ値の推定誤差0.35未満とした。また、回答者への結果フィードバック画面も開発した。IRT-CATシステムの特徴は、(1)全項目に答える必要がない(潜在特性上の位置(θ)の推定誤差が収束条件をクリアすれば、すぐに検査終了、別の測定時点・項目への回答結果でも比較が可能)、(2)同一項目群の繰り返し使用やこれまでの測定尺度のような常に同一順序の項目提示が回避(記憶されにくい)、(3)対象者のレベルに応じた項目選択、(4)結果の迅速なフィードバックが可能などである。 (2)CATシステム初版の試用 (1)のうつ症状測定CATシステム初版を大学生約170名に、1週間の間隔を開けて2回試用した。その結果、(1)平均10項目でCATによるうつレベルの推定は終了すること、(2)再検査信頼性(1週間間隔)は0.86で古典的テストと同様であること、(3)原版に沿って全項目をコンピュータ画面に提示し、測定したCBTとの相関は、1・2回目とも0.94以上で高い一致を示すことなどが明らかとなった。一方で、マウスやキー入力の操作よりも更に簡便な、タッチパネル方式への改良や、中学生や高校生向けのフィードバック画面作成の文章および視覚情報に関する指針など、今後の課題も明らかとなった。
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