月経前には、程度の差こそあれ、性成熟期の女性の大半が何らかの心身不調(月経前症候群:PMS)を経験する。PMSはなぜ生じるのであろうか?本研究では、正常月経周期を有する健康な女性72名を対象に、卵巣ホルモン、体内環境の恒常性の維持に寄与する自律神経活動(心拍変動パワースペクトル解析により評価)、唾液ストレスホルモン(クロモグラニンA、コルチゾール)を月経周期に応じて測定し、神経内分泌動態の観点からPMSの発症メカニズムを探究した。また性格特性とPMSとの関連についても併せて検討した。 卵胞期から黄体後期への心身不快症状増加率により、被験者を4群に分類した:Control群16名(0%)、L-Molilmina群29名(20%未満)、H-Molimina群12名(20%以上30%未満)、PMS群15名(30%以上)。Control群及びL-Molimina群では、自律神経活動が月経周期に応じて変化しなかった。一方、H-Mohmina群では、卵胞期と比較し、黄体後期の全自律神経活動指標(Total power)及び副交感神経活動指標が有意に低下していた。PMS群でもH-Molimina群同様、黄体後期にTotal powerの減少が認められ、さらに他の3群と比較すると、卵胞期・黄体後期の両期において心拍変動が減少、Total powerが顕著に低下していた。月経周期に伴うコルチゾールの変動はすべての群で認められなかったが、PMS群ではクロモグラニンAが黄体後期に顕著に増加した。また、PMS群では、回帰性傾向、非協調性、攻撃性の性格特性が認められた。本研究結果を考慮すると、PMSと診断されなくとも月経前に明らかな心身違和感を経験する女性では、その症状の発現に自律神経活動が関与している可能性が示唆された。またPMS症状が強くなるにつれ、月経周期に関係なく自律神経機能に変調を来すこと、さらに性格特性がPMSの神経生理的要因を修飾しうる可能性があることも併せて推察された。
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