研究概要 |
虚血・再灌流時の細胞障害に活性酸素などの酸化ストレスの発生やそれによる脂質酸化の関与が言われている。しかし,酸化ストレスや脂質酸化が虚血・再灌流時のどの時点で発生するか、発生部位や発生機序について現在のところ一定した見解はない。我々は、mouse embryonic fibroblasts(MEFs)を用いて虚血・再灌流条件に曝露し、抗酸化剤や電子伝達系阻害剤を投与することで脂質酸化と細胞死がどのように変化するかを調べ、これらの関係について考察した。生理的条件に類似させて調製した灌流液を虚血時では80%N2-20%CO2ガスで平衡させpH6.6とし、再灌流時では75%N2-20%O2-5%CO2ガスでpH7.4とし、流速0.5mL/minで灌流した。蛍光試薬を用いて顕微鏡下に細胞死と脂質酸化の検出を行なった。抗酸化剤としてn-acetylcystein、電子伝達系阻害剤としてKCN、antimycin A、myxothiazol、rotenoneを用いた。細胞死は虚血時から発生し、再灌流後では死細胞率は63.9%であった。この細胞死は抗酸化剤とKCNで抑制された。antimycin Aとmyxothiazolでは虚血での細胞死は抑制したが再灌流では抑制せず、rotenoneでは両者で抑制しなかった。脂質酸化は虚血で顕著な増加を認めたが、再灌流では増加は緩徐となった。各種薬剤の処置では、細胞死のパターンと同様に抗酸化剤とKCNでは脂質酸化は認められず、antimycin A、myxothiazo1、rotenoneでは脂質酸化が認められた。虚血での細胞死では低酸素状態であるにも関わらず何らかの酸化過程が起こっていること、この低酸素下での酸化過程はいくつかの電子伝達系酵素阻害剤で抑制されることが明らかとなった。
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