研究概要 |
コカインは,チトクロームP-450酵素などにより肝臓で代謝され,コカイン代謝産物がreactive oxygenspecies(ROS)の産生を誘導し組織障害を誘導すると考えられている。障害を受けた肝細胞は炎症を起こしていることが推測される。そこで炎症が起きた組織では,細胞内の種々の炎症性因子(例えば,TNFα,IFNγ,lL1βなど)が活発に働いていることはこれまで多くの報告がある。腫瘍壊死因子(TNF-α)はそのリガンドのTNFRlのデスドメインを介してアポトーシスを誘導すし,またその逆にアポトーシスを抑制しNFκBを活陸化し炎症反応を行う機能も持ち合わせている,多面的因子である。コカインによる肝障害時において,TNF-αおよびTNFレセプターp55(TNFRI)の役割を明らかにする目的で,TNFRIを欠損するマウス(KO)を用いて,その役割を解析した。その結果,ALTおよびAST値において,野生型(WT)およびKOマウスの間にコカイン投与後6および10時間で有意差が見られ,明らかにKOマウスの障害は強かった。肝臓組織のHE染色像でもALTの指標と同様の傾向が示された。更に,肝臓組織の抗MPO抗体及び抗F4/80抗体を用いた免疫染色像の結果は肝臓組織において両者とも,KOマウスの方がWTマウスよりも有意に強く染色され,何れも,ALTの指標と類似した傾向が見られた。以上の結果から,コカインによる肝障害においてTNFα-TNF receptorl(p55)系はコカインによる肝障害時に防御的に作用していることが示された。この研究はコカイン誘導肝障害時の障害機構を解析する一端を開いたと考えられた。
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