研究概要 |
プロダクトイオンスキャン(MS/MS)とは,対象となるイオンを第一のマス分析部(MS)で選択し,これをコリジョンセルで解離し,プロダクトイオンを第二のマス(MS/MS)で選択,検出する方法である。この方法では種々のプロダクトイオンから分子構造についてのより詳細な情報が得られるのみならず,ノイズを極めて低く押さえることが可能で,結果としていままで以上の高感度を得ることができる。本年度はこの方法を用いて以下の解析を行った。 1.MS/MS法を用いた6価クロムの選択的定量ならびに,6価クロム錯体の結合様式の解明 3価のクロムは糖,蛋白,脂肪の代謝に必須の金属であるが,6価クロムは微量でも,発ガン作用等があり,有害である。また,6価クロム化合物はUrine Luckの商品名で売られ,尿中の大麻,モルヒネ,コデインの検出を妨害するので3価のクロムと,6価クロムとを分けて定量する必要がある。MS/MSにより錯体の結合様式を解明した。また検出限界をMS法の50分の1以下にする事ができた。この結果を2007年8月シアトルでの国際法中毒学会にて発表した。 2.MS/S法を用いたシスプラチンの定量ならびにシスプラチン中毒の解明 シスプラチンはプラチナを含む抗癌剤である。この薬剤の過剃投与後,44日と181日に死亡した二人の中毒患者の血液と尿では濃度が低すぎたので,以前の方法では試料を5倍に濃縮後に定量した。今回,MS/MSによる定量の最適条件の検討を行なった。その結果,中毒患者の血液と尿とを5分の1に薄めても定量が可能となった。この結果をForensic Toxicology 25(2007)で発表した。 3.MS/MS法を用いたコバルトの定量ならびに造血機構の解明 コバルトはビタミンB12の構成要素であり,コバルト製剤の服用により,赤血球が増加するので運動選手が血液ドーピングの代わりに用いていることが示唆されている。一方,コバルトの過剰摂取は発ガンその他の害があるので血液中,尿中の鋭敏な定量が必要である。従来のICP-MS法では1本のシグナルしか観察できないが,MS/MS法を用いて,数本のプロダクトイオンのシグナルが観測できるようにし,同定の信頼性を向上させ,かつ感度も向上させた。この結果について,2007年9月,日本医用マススペクトル学会で発表した。
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