1.モノメチルアルソン酸・ジメチルアルシン酸の定量法の確立と患者尿の定量 ヒ素はICP-MS法で定量されていた。しかし、その方法ではヒ素を元素としてのみ検出するので、種々のヒ素化合物を区別することができない。ある種の癌の治療には亜ヒ酸が用いられている。また世界各地で報告されている飲料水のヒ素汚染は主にヒ酸である。体内に摂取されたヒ素は主に肝臓で代謝され、尿中へはモノメチルアルソン酸・ジメチルアルシン酸として排出される。尿には海産物から摂取されたアルセノベタイン・アルセノコリン等の殆ど無害な有機ヒ素化合物も大量に排出されている。ICP-MS法ではこれらのヒ素化合物を区別することができないので、カラムで分離後定量してはいるが、未知物質が混入していてもその判別はできない。申請者はヒ酸・亜ヒ酸のESI-MS-MS法による定量法については既に報告した。本年度はモノメチルアルソン酸・ジメチルアルシン酸とクエン酸の付加物を作成し、ESI-MS-MS法で高感度に解析する方法を開発した。また、亜ヒ酸治療を受けた患者尿中の種々のヒ素化合物の尿中経時変動も測定し、J.Chromotogr.Bにて報告した。 2.シアンイオン(CN)の錯体化によるESI-MS-MS定量法の開発と中毒患者試料の定量 青酸ソーダ・青酸カリの摂取、建築物燃焼時のシアンガスの吸入、ある種の芋・キノコ・CN含有化合物の摂取により、CN中毒がおきる。従来のイオンクロマト法では同定に保持時間を用いているので、同時に溶出する物質の区別ができず、また感度も低い。申請者はCNの錯体を作成し、ESI-MS-MS法で高感度に解析する方法を開発した。外見上でも、青酸の予備試験でも青酸中毒とは判定されなかった遺体の胃内容を調べたところ、本方法で致死レベルのCNが検出され、本方法の有効性が示された。この結果をAnal.Chim.Actaにて報告した。
|