補体成分であるCls、ClrおよびClr-like protein (Clr-LP)は、ヒトでは12番染色体上に隣接して位置し、機能面、発生面で関連が深いとされている。本研究は、これら3つの遺伝子の多様性の分子基盤やハプロタイプ、発現調節のメカニズムについて、ヒトおよび他の霊長類について解析を行い、3つの遺伝子の分子進化とその相互関係について知見を得ることを目的とする。また、ハプロタイプ解析から、新たな法医学分野における個人マーカーの確立を目指すものである。データベースで非ヒト霊長類について調べると、ClR遺伝子ではチンパンジー、オランウータン、カニクイザルのmRNAが、ClS遺伝子はチンパンジーやアカゲザルに関する報告がある程度で、いずれもまだ研究が進んでいないのが現状である。本研究では、チンパンジー、ゴリラ、ニホンザルのDNAを用いて、19年度・20年度にClS遺伝子とCIR遺伝子のコーディングエクソン領域の塩基配列を決定し、両遺伝子の分子進化について知見を得た。しかし、それぞれの遺伝子の分子進化に関してさらに深い知見を得るためには、イントロン部分も含めた比較解析を行うことが望ましい。そこで今年度は同サンプルのClR遺伝子のイントロン領域の塩基配列をほぼ決定した。しかし、ヒトClR遺伝子でも解析が困難であったイントロン8と10については、他の霊長類でも決定しにくくいまだ不完全な状態である。ClS遺伝子についても同様に解析を進めているところであり、今後は、ClS遺伝子とClR遺伝子の分子進化にさらに深い知見を得たい。また、Clr-LPについても同様に解析を進めたい。
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