研究概要 |
法医学実務において行われる血中アルコール濃度推定ではアルコール代謝の個体間差と個体内差の存在が重要な課題である。アルコール代謝の個体内変動として、2週間程度の期間、連続飲酒した場合の酵素誘導が有名であるが、これ以外にSIAM(Swift Increase in Alcohol Metabolism, Thurmanら,1979)と呼ばれる、短時間で生じるアルコール代謝の加速的亢進が知られている。これは、高濃度のアルコールの急性投与により酸素消費量とアルコール代謝が加速的に亢進する現象である。このSIAMの生じる薬物動態学的変化を種々の時間的変動や投与量の変化発より調べ、個体内変動の生じるメカニズムを検討することを本研究の目的とした。さらに血中アセトアルデヒドやアセテートの動態へのSIAMの影響を詳細に検討することを第2目的とした。その結果、再現性よくSIAMが生じる条件が得られ、アセテートの血中濃度がアルコール消失速度の加速的増強とともに増加することが認められた。このことから、血中アセテートの定常状態での濃度がSIAMの指標となることが明らかとなった。アセテートの変動については知られていなかったため新知見となった。更に、この実験条件とモデルを使い、生化学的な代謝動態を詳細発検討した。その結果、アルコール代謝酵素やアルデヒド代謝酵素の増加はほとんど認められなかった。しかし、ミトコンドリアのチトクローム系の増強が認められたが、現在詳細な検討中である。今後、その意義について詳細な検討を行う予定である。
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