法医解剖症例の中には心臓性突然死が強く疑われるものの解剖による肉眼的観察とその後の組織検査によっても形態学的変化を認めない症例が散見される。特に比較的若年者にこうした症例が見受けられる。こうした原因不明の突然死症例には以前から胸腺、脾臓あるいはリンパ節といった免疫臓器の肥大が観察されることが知られており、一般に胸腺リンパ体質あるいは単にリンパ体質と呼ばれる。しかしながら、この胸腺リンパ体質の実体については全く明らかとされていない。一方、心電図上でQT時間の延長を来すQT延長症候群(以下LQTSと略す)は、時に致死性不整脈を生じて突然死の原因となることが知られている。LQTSがいわゆる胸腺リンパ体質のモデルとなりうるかどうかについて明らかとすることを目的として研究を行った。平成7年から平成16までに大阪医科大学法医学教室で法医解剖した1394例のうち、解剖時の肉眼所見と組織学検査によって原因不明の心臓性突然死と診断された症例が約50例あり、これらの症例におけるLQTS原因遺伝子変異の有無について検討した。このうちの1例についてLQTS原因遺伝子の一つであるKCNQ1の新規の未報告例の変異が発見された。この症例では、リンパ組織の一つである脾臓重量の増加が認められた。この変異によってリンパ組織に肥大が生じるかどうかについて検討するために、この変異部位を導入した変異モデルマウスを用いて、モデルマウスにおける免疫臓器の肥大の有無、特に胸腺リンパ球の増殖分化程度について検討することとした。現在、LQTS変異マウスを作成中で、キメラマウスの作成までの段階が終了している。
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