背景:これまで過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome: IBS)を中心とした機能性消化管障害患者の腹部膨満感に対して、どのような要因が関与しているかについて詳細に検討されてはいない。そこで、本研究においてIBS患者の腹部膨満感は健常者と比較して重症であり、その重症度は消化管知覚・消化管ガス量とあまり関連せず、便通症状と関連するという仮説を検証した。 研究方法:Rome II診断基準を満たしたIBS 37例と健常者18例を対象とした。消化器症状重症度をIBS Severity Index (IBSSI)ならびにgastrointestinal rating scale(GSRS)で、QOLをSF-36ならびにIBS-QOLで、不安症状をStait-Trait Anxiety Index (STAI)で、抑うつ症状をSelf-Rating Depression Scale (SDS)でそれぞれ評価した。消化管知覚ならびに安静時大腸運動は直腸バロスタットを用いて測定し、消化管内ガス量は腹部単純X線写真から算出した。 研究結果:IBSは健常者に比較して、消化器症状、精神症状スコアが有意に高く、QOLが有意に低かった。IBSはまた、直腸伸展刺激に対する痛覚閾値ならびに便意閾値が有意に低下していたが、直腸運動、消化管内ガス量は健常者と有意な違いを認めなかった。腹部膨満感スコアは便秘尺度と有意な正の相関を示したが、直腸知覚、安静時直腸運動、腹部ガス量とは有意な相関を認めなかった。考察:腹部膨満感は、IBS患者にとって腹痛と同様、社会生活に影響を及ぼしうる症状であるが、単純に消化管内ガス量の増加によって決定付けられるものではなく、様々な要因によって生じうると考えられた。
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