EGFRの阻害剤であるGefitinibはEGFRのキナーゼ領域に活性化変異をもつ一部の肺癌に有効であるが、これらの分子標的治療剤の獲得耐性や、もともと効果が得られない自然耐性の詳細な分子機序は未だ明らかになっていない。我々はGefitinibの作用機序を詳細に解析し、アポトーシス誘導にはAktとErkの不活化されることによってミトコンドリア内でp21Baxからp18Baxへの転換が促進されるためであることを明らかにした(J Cell Biochem 2006)。さらにがん遺伝子導入細胞でGefitinibの感受性を調べたところ、Srcで120倍、Rasで50倍の耐性を誘導することがわかり、このGefitinib耐性細胞ではAktとErkが活性化されており、Baxが不活化されていた。このことはGefitinibの効果発現には、1)EGFRをバイパスする生存シグナルや抗アポトーシスシグナルが存在しないこと、2)AktとErkが不活化されること、3)Baxが分解を受けず活性化されること、などが重要であることを意味している(Cancer Chemother. Pharmacol.2006)。このように抗がん剤や分子標的治療剤の耐性はシグナル伝達制御により克服でき、また抗がん剤の種類によっては逆に感受性を誘導するシグナルも存在するため、個々の固形癌についてこれらのシグナル伝達の活性化の遺伝子情報が得られれば個別化治療に応用できる。さらにBaxの発現上昇はUbiquitin-Proteasome系が阻害されて、Baxの分解が抑制された結果であることが推測される結果を得ており、Bax分解機序も新たな分子標的になることがわかった。
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