本研究は、自己の情動処理の不全である「アレキシサイミア(失感情症)」が関わると思われる疼痛に関する情動処理の不全に関しての、ヒトを対象とした脳機能画像研究(機能的磁気共鳴画像:fMRI)である。まず、アレキシサイミアに関する質問紙(TAS-20)妥当性の検討を行い、TAS-20及び開発した構造化面接を用いて、アレキシサイミア群とコントロール群をリクルートし、情動刺激(疼痛を受けている画像)に対して、fMRIを用いて、課題を評価しているときの脳活動が、どのように障害されているのかについて検討を行った。その結果、(1)アレキシサイミア群においては、疼痛画像がどれくらい痛いかの評価得点が、コントロール群に比べ有意に低下していた。(2)疼痛画像を観察してその痛みの度合いを得点化する際には、脳内では、自己が実際に痛みを受けたときに活動するのと同じ部位(pain matrix)が用いられていた。(3)アレキシサイミア群においては、疼痛画像を観察して得点化する際に、pain matrixの中でも特に背外側前頭前野や前帯状回といったより認知的処理に関係する部位がより活動が低下しており、情動処理におけるより実行的・認知的な側面が障害されていることがわかった。 さらに、実際の疼痛(電気刺激)に関する情動処理に対する心理的な修飾を検討した。(1)痛み刺激に対する主観的評価得点は、予期不安が高い時の方が同じ電流でも有意に高かった。(2)脳機能画像では、痛み刺激に対しては、いわゆるpain matrixが描出されるが、その脳活動は、実際の電流(mA)より主観的なratingとの方が、より広範な範囲で相関が認められ、痛み体験がより主観的な体験であることを示した。(3)痛みに対する予期不安による心理的なmodulationが、大脳基底核〜辺縁系(扁桃体など)を中心としたより情動的な領域においてみられた。あわせて、今後の疼痛研究への重要な布石となると思われた。
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