研究概要 |
本研究では、高齢者における、ストレスに対する脆弱性を規定する生体内基盤要因とうつ病の発症機構の解明を目指す。生体内基盤要因として、特に脳内では、老化に伴うグルココルチコイド受容体(GR)の減少によるグルココルチコイド作用の低下に着目し、その様な状態にストレスが加わると、神経系に機能障害が易発し、うつ状態や認知機能障害が発生するとの仮説を立てた。本研究の目的はこの仮説を、動物を用いた基礎研究から検証し、高齢者うつ病の発症機構について示唆を得ることである。 前年度において、正常老齢動物(F344/NSlcラット)では、前頭前野、海馬、および視床下部におけるGRの減少の基つくグルココルチコイド作用の低下と共に、抑うつ状態様行動異常や認知機能障害、思考の柔軟性の低下が観察された。今年度の研究により、抑うつ状態は前頭前野のセロトニンおよびドーパミン神経の機能低下に、認知機能障害および柔軟性の低下はドーパミン神経の機能低下に基づくことが示唆され、老化により前頭前野の機能が低下することが示された。若齢ラットでもグルココルチコイドによる制御を消失させると前頭前野のドーパミン神経の機能低下に基づく抑うつ状態様行動異常や認知機能障害が発生することから(Mizoguchi et. al., J. Neurosci, 2004)、老化した脳でも観察されたグルココルチコイド作用の低下が前頭前野の機能低下に関連する可能性が考えられた。また、老齢ラットはストレスに過敏に反応するというストレス脆弱性を示し、上述した仮説の一部が裏付けられた。ストレス脆弱性とグルココルチコイド作用の低下との関連に興味が持たれる。
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