本研究では、高齢者における、ストレスに対する脆弱性を規定する生体内基盤要因とうつ病の発症機構の解明を目指す。生体内基盤要因として、特に脳内では、老化に伴うグルココルチコイド受容体(GR)の減少によるグルココルチコイド作用の低下に着目し、その様な状態にストレスが加わると、神経系に機能障害が易発し、うつ状態や認知機能障害が発生するとの仮説を立てた。本研究の目的はこの仮説を、動物を用いた基礎研究から検証し、高齢者うつ病の発症機構について示唆を得ることである。 前年度までの研究により、正常老齢動物(24月齢のF344/NSlcラット)では、前頭前野におけるGRの減少の基づくグルココルチコイド作用の低下と共に、同部位のセロトニンおよびドーパミン神経の機能低下に基づく抑うつ状態様行動異常や認知機能障害、思考の柔軟性の低下を示すことを見出した。今年度の研究により、人為的に前頭前野のGRの機能を低下させた若齢ラットにおいて、老齢ラットと類似したフェノタイプが現われることが確認されたことから、老化ラット脳で観察されたグルココルチコイド作用の低下が前頭前野の機能低下に関連することが示唆された。また、老齢ラットはストレスに過敏に反応するというストレス脆弱性を示したことも考慮すると、GR機能の低下が、老化による様々な脳機能低下の低下に基盤的要因として関与し、このような状態がストレス脆弱性を表現すると考えられる。このように、この3年間の研究により、上述した仮説を裏付ける結果が得られ、本研究成果の高齢者うつ病の発症機構解明への応用が期待される。
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