研究概要 |
本研究では胃癌および前癌状態粘膜上皮における遺伝子変化を網羅的に解析することをめざした。しかし、非癌粘膜上皮では共通する遺伝子変化に乏しく、胃癌を研究対象とした。500,000部位のSNPを同時に解析する高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いて、34種のヒト胃癌培養細胞株におけるゲノムコピー数の異常(欠失と増幅)を網羅的に解析した。ゲノムのホモ欠失領域は18の細胞株に計26箇所認めた。また、ゲノムコピー数の増加は多数みられたが、推定コピー数が5以上で2つ以上の細胞株に共通する高度増幅領域は20細胞株に計31箇所認めた。これらの領域の約半数は胃癌において未報告であった。これらの領域に含まれる遺伝子から、未報告の遺伝子を主にコピー数増幅については10遺伝子、LOHについては4遺伝子を選定した。ヒト胃癌臨床検体42例について癌部をレーザーマイクロダイセクションにより切出しDNAを分離、定量的リアルタイムPCRおよびマイクロサテライトマーカーによって、これらの遺伝子の変化が胃癌臨床検体においても頻繁に生じていることを確認した。臨床データと照合すると、遺伝子コピー数の増幅やLOHはリンパ節転移や脈管浸潤を伴う症例に多く見られた。今回新たに見出された遺伝子は胃癌発生に関わっている可能性が高く、発癌機序の解明に繋がる可能性がある。また、ステージIないしIIの症例においてLOHの多発は短い生存時間と有意に関連しており、特定遺伝子のLOHの測定は術後ハイリスク患者の鑑別に役立つ可能性がある。
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