研究概要 |
進行癌症例は化学療法しか選択肢がなかった。外科手術は一般に侵襲が大きいため、減量治療に用いることはできなかった。本研究は、IVR(interventional radiology)と全身化学療法とを併用した治療の有用性を評価し、進行癌症例に対する新たな治療戦略を確立することを目的として計画した。当初は、肝転移が主な病変であり、肝外には比較的小さな病変しかないような症例に対し、開腹手術等と比較して低侵襲の経皮的ラジオ波焼灼療法で効率的に癌の減量治療を施行した後に化学療法を行ない、化学療法単独治療群と比較して、生存率の改善が認められるかどうかを検討する計画であった。しかし、患者をラジオ波と化学療法の併用治療群と化学療法単独治療群にランダムに割り付けることが困難であり、ランダム化比較試験は断念した。 今回の研究で主な対象とした大腸癌肝転移では切除可能例は10~30%とされ、肝切除後再発や高齢者等は切除を希望しない場合も多い。当科では大腸癌肝転移にラジオ波中心の集学的治療を行なってきた。適応は、根治目標群では、切除不能または切除希望せず、5cm5個以内、肝外病変なし、主要脈管に広範に接しない、とした。腫瘍減量により予後改善を図る群では、主病変が肝臓に存在し化学療法未施行または有効例とした。135例にラジオ波を実施した。内訳は、年齢64.8±11.1歳(81歳以上12例)、男性85例、径3.2±1.3cm、病変数4.1±4.8個だった。107例(79%)で前治療(全身化療77例,肝切除38)例,動注22例,他)があった。82例は切除不能・困難と考えられたが、理由は切除不能肝外病変46例(肺29例[切除可能3例は含まず],リンパ節13例,腹膜播種10例,原発巣再発7例,他),心肺疾患合併7例,多発肝転移20例,肝切除後多発再発4例,断端再発3例(重複あり)だった。術前検査は胸部~骨盤部CTとUSだけでPET等は行なっていない。治療後は3ヶ月毎に胸部~骨盤部CTと腫瘍マーカーを検査した。FOLFOX、FOLFIRIのレジメン導入後は術後全身化療を原則としたが、患者希望等により無治療、S-1内服となる症例もあった。ラジオ波初回日を開始点とした135例の生存率は1,3,5,7年91%,64%,36%,27%で、5年生存12例、7年生存6例だった。根治目標群67例では1,3,5,7年95%,86%,58%,43%だった。合併症は消化管穿通・穿孔3例、肝梗塞3例、肝膿瘍2例、気胸1例、熱傷1例、胆管損傷1例だった。 なお、ラジオ波を中心とした集学的治療を行なった胃癌肝転移16例の生存率は1、2、3、4、5年74%、52%、43%、43%、43%で5年以上生存が2例だった。 従来、肝転移では切除以外には長期生存が得られないとされ、第一選択は切除とされている。今回検討したラジオ波中心の集学的治療では、切除不能例が多く含まれるにもかかわらず、生存率は良好であり長期生存例も少なくない。再発を早期発見し低侵襲治療を繰返すという治療戦略は肝転移でも有効と思われる。ラジオ波は治療の選択肢に加えられるべきであろう。
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