研究概要 |
我々は、ヒスタミンH2受容体(H2受容体)を中心に胃粘膜および胃酸分泌機構の研究を進めてきた。同遺伝子をクローニングし、さらに、同受容体欠損マウスを作成した。またガストリン受容体欠損マウスとH2受容体欠損マウスを掛け合わせることにより、両遺伝子を欠損するマウス(ダブル欠損マウス)を作製した。これらのマウスの解析により、両受容体が胃酸分泌のみならず、胃底腺粘膜の分化増殖にも大変重要であることを解明している。今回ヒスタミンH2受容体欠損マウスにおけるグレリンの血液濃度や胃組織中での発現を解析した。また胃組織の病理標本を免疫組織染色および電子顕微鏡で解析した。胃のプレプログレリンmRNA,血漿のグレリン濃度、および胃粘膜のグレリン免疫染色陽性細胞はヒスタミンH2受容体欠損マウスにおいてワイルドタイプのマウスに比べ著増していた。グレリン陽性の免疫金染色陽性濃度はヒスタミンH2受容体欠損マウスのA様細胞(A-1ike cells)で減弱していた。これらの結果からヒスタミンH2受容体欠損マウスにおいて胃底腺のA様細胞からのグレリン産生と分泌がupregulationを受けていることが示唆された。胃底腺のmorphogenとして知られるsonic hedgehog(Shh)はヘリコバクター・ピロリの感染症に伴う萎縮性胃炎において発現が減弱していることが報告されているが、Shhの発現低下がこららの慢性炎症に伴う変化であるかまだ不明な点が多い。今回ピロリ感染とは無関係の炎症性変化のないヒスタミンH2受容体欠損マウスを用いて壁細胞のdysfunctionの観点からShhとTEF2との発現を検討した。その結果ヒスタミンH2受容体欠損マウスにおいて胃PHは上昇し、Shhは発現低下、TEF2は発現増加が観察された。これらの解析の結果ピロリ菌による慢性炎症がなくても持続的な壁細胞の機能低下(dysfunction)だけで胃底腺領域のTEF2発現増加部位においてShhのdown-regulationが起こることが示唆された。
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