研究概要 |
胃癌の胃型・腸型形質発現制御における転写制御はホメオティック遺伝子の関与が予想されている.ホメオティック遺伝子ATBF1(AT motif binding factor 1)はAFP遺伝子のプロモーター領域のAT motifに結合しその発現を抑制する転写因子として発見された.その後ATBF1は癌抑制遺伝子で,核・細胞質移行が重要であること明らかになりつつある.胃癌の胃型腸型形質発現におけるATBF1の役割を検討した.【方法】1.胃癌切除標本123例について,MUC5AC, MUC6,MUC2,villinの免疫染色を行い,胃型,胃腸混合型,腸型,Null型に分類し,ATBF1の局在との関連につき検討した.2.胃癌細胞株にATBF1発現vectorとMUC5ACのreporter plasmidを導入しATBF1のMUC5ACプロモーター制御について検討した.3.ATBF1のMUC5ACプロモーター領域のAT motif様配列への結合を確認するため,chromatin immunoprecipitation(ChIP)を行った.4.ATBF1を強制発現し,MUC5ACの蛋白レベルでの発現制御を蛍光免疫染色で検討した.【結果】1.ATBF1が核に局在する胃癌細胞では胃型形質が有意に抑制され,特にMUC5AC陽性率は9%と有意に抑制されていた.2.MUC5ACプロモーター領域にAT motif様配列の存在を確認した.ATBF1の強制発現によりMUC5ACのプロモーター活性はAT motif依存的に35.496にまで抑制された.3.ChlPにてATBF1のAT motif様配列への結合が確認された.4。ATBF1を強制発現させた細胞のMUC5AC陽性率は11.3%と有意に低下し,蛋白レベルにおいてもATBF1はMUC5ACの発現を有意に抑制した.【結論】胃癌の胃型・腸型形質発現制御にATBF1の核・細胞質移行が重要な役割をしており,特にATBF1が核に局在する場合はATBF1がMUC5ACのプロモーター領域のAT motifに結合しMUC5ACの転写を抑制的に制御し,胃型形質発現が抑制されていると考えられた.
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