IPMN (Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)は膵癌の前癌病変の1つと考えられている。最近は組織学的な乳頭構造の違いや粘液ムコ多糖蛋白(MUC)の発現様式により組織亜型分類が行われ、亜型による悪性度や予後に違いが疑われている。そこで、その背景となる遺伝子異常のパターンにういて検討を行った。対象は切除されたIPMN25例で、その内訳は、亜型分類Gastric type(Ga)11例、Intestinal type(Int)11例、Oncocytic type(Onc)2例、Pancreatobiliary type(Pb)1例である。 レーザーマイクロダイセクション法を用いて腫瘍細胞のDNAを抽出し、K-ras、B-raf、PI3Kの変異解析および免疫組織染色により、p53異常集積、p16、SMAD4の発現低下、ERKのリン酸化の頻度を検討した。その結果、K-ras変異はGa9/11例、ht3/11例、Onc1/2例、Pb 0/1例に認め、'Gaにて有意に高かった。B-raf、PI3Kの変異はいずれのタイプでもまれであった。P53の異常集積は8/25例、pl6の発現低下は12/25例、SMAD4の発現低下は5/24例に認め、亜型による有意差は認めなかったが、p53は組織学的悪性度と有意な相関関係を認めた。細胞内シグナル伝達にてK-rasの下流と考えられるERKのリン酸化の頻度はGa10/11、Int4/11でK-ras変異同様にGaにて有意に高かった。GaとIntを比較すると、悪性度の高いIntにおいてp53異常の頻度が高く、悪性度の低いとされるGaではほとんどの通常型膵癌に認めるK-ras遺伝子変異が高かった。Intでは発癌過程の後期に起こるとされる遺伝子変異によりIPMN由来癌の発生に関連'し、Gaでは何らかの要因が加わり通常型膵癌の発生に関与する可能性が考えられた。
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