研究概要 |
肝全体に多発性肝細胞癌を有する肝移植症例を対象として、1症例より複数の転移性病変を採取して染色体解析を行い。そのゲノム多様性と多段階発癌における意義について検討した。 文書による同意を得たのち、肝移植手術後に癌部および非癌部より組織を約1g採取し、proteinase K/phenol-chloroform法を用いてDNAを抽出した。 PCRプライマーは22の常染色体及びX染色体を約10センチモルガン間隔で網羅する400のマイクロサテライトマーカーを用い、癌部および非癌部DNAを用いてすべてのマイクロサテライトマーカーについてPCRを実行し、自動解析されたピーク面積を用いてアレリックインバランスを検出した。次に染色体の欠失と重複を判別するために、SNPアレイ解析(Affymetrix社、10K array)を行い、最終的にアレリックインバランスとSNPアレイ解析の結果を合わせて染色体欠失/重複の領域を決定した。 平成16年4月から平成19年8月までに72例の肝細胞癌症例が移植手術を受け、このうち2例において腫瘍部各2結節、6例において3結節、計20結節が取得された。これらの結節では-1p,+1q,-4q,+5,+7,-8p,+8q,-16q,-17pなど従来より肝細胞癌に高頻度に異常が報告されている染色体欠失・重複が検出された。各結節の関連性を検討し得た7症例ではいずれも特徴的な共通染色体異常が認められた。従来より肝硬変を母地として生じる肝細胞癌は約半数が多中心性発癌、すなわち別クローン由来と考えられてきたが、本研究の結果から肝移植を必要とするような末期肝硬変における多発肝細胞癌は肝内転移に由来するものが多いことがわかった。 次に30結節を取得し得た1症例において同様の解析を行った。このうち12結節では-1p,+1q,-6q,-16q,+22qが一致して認められたが、その他の6結節においてはほとんど全ての染色体領域に重複ないし欠失が認められ、染色体の安定な基本クローンが肝内転移の過程において何らかの原因により染色体不安定性を獲得したことが示唆された。
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