平成17年度までに、HCV全遺伝子が組み込まれたトランスジェニックマウス(HCV TgM)に軽度の鉄過剰餌を与えC型慢性肝炎患者に匹敵する肝内鉄濃度に達すると、肝細胞癌を含む肝腫瘍を生じる発癌モデルの作製に成功した。そこで本研究ではHCV TgMを用いてHCVタンパクが鉄代謝に与える影響について検討した。肝臓におけるhepcidin nRNAおよびprohepcidinのタンパク発現レベルはHCV TgMがコントロールマウスに比べて有意に低く、これに対応して十二指腸ならびに脾臓における鉄汲出しタンパクであるferroportinの発現はHCV TgM で亢進していた!HCV TgMのprimary hepatocyteにhepcidin promoterをtransfectionしreporter assayを行ったところ、HCV TgMではhepcidin promoter活性が低下していることが明らかとなった。転写因子のひとつであるC/EBPαのDNA binding activityがHCV TgMでは有意に低下していた。C/EBPファミリーの一つであるCHOPはC/EBPα、C/EBPβとheterodimerを形成してC/EBPα、C/EBPβのDNA結合活性を低下させるためHCV TgMの肝におけるCHOPの発現をwestern blottingで解析したところ、HCV TgMのCHOPの発現はコントロールに比べて有意に上昇していた。さらにCHOPの発現充進時期に一致して肝組織内の活性酸素の産生が亢進していた。以上の結果より、HCVタンパク存在下では活性酸素の産生亢進に伴うCHOPの発現増加によりC/EBPαのDNA結合活性が低下し、これによりhepcidin promoter活性が低下することでhepcidinの転写活性が低下し、結果的に十二指腸からの鉄吸収ならびに網内系からの鉄放出が亢進することで肝の鉄蓄積が引き起こされることが明らかとなった。本研究はC型慢性肝炎における鉄蓄積機構を世界で初めて明らかにしたものとして国際的にも注目された。
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