【目的】進行肝癌は転移や再発が多く有効な治療法が確立されていない。中村らは、新生腫瘍血管を介して癌細胞を浸潤・転移させる作用を有する肝細胞増殖因子(HGF)を阻害するのがHGF分子内構造体であるNK4であることを報告した。治療成績向上に感染腫瘍細胞の融解壊死等の抗腫瘍効果を発揮する腫瘍融解ウイルスとNK4を用いて新たな肝癌遺伝子治療の有効性を検討する。同時に肝癌の約7割がα-フェト蛋白(AFP)産生腫瘍であることから、AFP産生腫瘍に特異的に取り込まれる腫瘍融解ウイルスを作成してより特異性の高い肝癌治療の臨床応用の実現するため本研究を行った。【方法】AFP発現制御能を付加した腫瘍融解ウイルス(AdAFPep/Rep)とNK4を組み込んだ腫瘍融解ウイルス(AdCMZ.NK4;大阪大中村先生、東北大貫和先生より供与)を作成し、肝癌細胞株を移植したヌードマウスに対する抗腫瘍効果や癌浸潤・転移に対する両腫瘍融解ウイルスの遺伝子治療効果を検討した。【成績】腫瘍融解ウイルスは肝癌細胞株(HuH-7、 HepG2)のアポトーシス作用と細胞障害性を発揮したが正常肝細胞には無効であった。AdCMZ.NK4併用による遺伝子治療により相加・相乗効果を認めた。肝癌細胞のin vitro浸潤実験ではAdCMZ.NK4が肝癌細胞浸潤を強く阻害した。移植肝癌に対する抗腫瘍効果も両腫瘍融解ウイルス遺伝子治療で最も顕著に認めた。浸潤・転移能の指標となるCD31、 VEGF、 MMP-2、 MMP-9の発現抑制はAdCMZ.NK4遺伝子治療で強く、両者の併用でそれぞれの効果が増強した。【結語】腫瘍融解ウイルスとNK4による新たな肝癌遺伝子治療は、特異性と優れた抗腫瘍効果と癌浸潤・転移に対する有効性が認められた。
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