新規のがん関連遺伝子であるFIP200の肝細胞癌での発現や働きを明らかにし、将来的には治療にも結びつけることを目標として研究を行っている。 我々は昨年度に新規癌関運遺伝子であるFIP200蛋白が培養肝癌細胞に発現し、主にp53を介した増殖抑制作用、アポトーシス誘導能を有していることを報告し、今年度から外科的切除で得られた肝細胞癌組織を用いてFIP200蛋白の発現を検討している。また同時に組織学的悪性度との関連性も検討した。IRBの承認後、当院消化器外科において切除術を施行された肝細胞癌患者のうちインフォームドコンセントを行い文書にて同意が得られた14例の癌部及び非癌部の組織を用いた。組織の一部をホルマリン固定し切片を作製し、抗FIP200抗体を用いて免疫染色を行い発現度を検討した。発現の度合いは癌部、非癌部で差があるか比較検討し、さらに、分化度との関連性も検討した。分化度の判定は病理医に依頼した。残りの組織の一部から蛋白質を抽出し抗FIP200抗体を用いたWestern blotting法でも発現を検討した。結果、内因性FIP200は免疫染色およびWestern blottingにおいて全肝癌細胞組織および非癌部組織に発現されているのが確認された。免疫染色においてFIP200は主として細胞質に顆粒状に発現していた。また、全症例においてFIP200は癌部において非癌部より発現の減弱が認められた。 さらに、同一組織において分化度が異なる領域を比較した際、高分化、中分化、低分化と分化度が低くなるにつれ発現レベルが減弱している傾向が強く認められた。結論として、FIP200蛋白は実際のヒト組織においても発現していることが確認された。その発現レベルは、癌組織は非癌部組織と比較して減弱しており、肝発癌と密接に関連していると考えられた。また、分化度と発現レベルが相関しており、FIP200は肝癌において悪性度に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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