研究概要 |
DbpAの機能をin vivoで調べるために、同遺伝子を肝臓で発現するトランスジェニックマウスを作製し、同マウス肝における細胞遺伝子の発現の変化を調べた。同マウスは60週令で約10%の個体に肝腫瘍を発生する。肝臓に未だ形態学的な異常を認めない30週令の個体の肝臓からRNAを抽出しアジレント社製のcDNAチップ(約2万のマウス遺伝子を含む)を用いて調べた結果、同マウス肝で発現の亢進している11遺伝子、および発現の低下している9遺伝子を確認した。発現の亢進している11遺伝子のうち、7個までが、細胞の増殖および癌化に関連したものであり(Tobita et al. Int J Oncol.29:673,2006)、dbpAは細胞内の遺伝子発現を制御する機序によっても高癌化状態を促進させている可能性が示された。発現低下を示す9遺伝子には、脂肪酸分解を促進するアシルCoA合成酵素が含まれた。アシルCoA合成酵素は脂肪酸分解経路で働き、発現低下により肝臓で脂肪が蓄積する。既に、肝発癌過程においては、脂肪蓄積が前癌病変の一つと見なされており、また、脂肪酸合成阻害酵素の抗癌作用も報告されている(Lupuand et al. Endocrinology 147,4056,2006)。脂肪代謝の異常は、現時点における肝発癌過程研究の重要なテーマの一つであり、現在我々は、同酵素の発現抑制と肝発癌過程との関連を調べている。
|