我々が発癌過程を促進させる蛋白と考えているdbpAに関して、以下の実験結果を得た。1)dbpAはcold shock domainを有し、原核細胞のホモログは低温ストレスに反応して発現増強するが、哺乳動物細胞においてはストレス反応蛋白としての性質は明らかにされていない。我々は、マウスの肝切除前に門脈を5分間結紮すると、dbpAの発現状態が有意に亢進することを確認し、dbpAは虚血により発現が高まるストレス反応性タンパクであることを示した。現在、虚血の個々の要素(低酸素、低温、pHの変化)による影響を調べている。2)dbpAを肝癌培養細胞株(Huh7)で一過性強制発現させると、細胞増殖能が亢進することを確認した。dbpAを強制発現させた細胞のcell cycleをFACS解析したところ、S期の分画が増加していることを確認した。3)ヒト胃癌症例におけるdbpAの発現状態を調べた。我々は、既にヒト肝細胞癌におけるdbpAの発現状態を調べ、発現の亢進した症例では予後が不良であることを報告しているが、胃癌においては逆に、分化型癌において発現程度が高く、未分化癌では発現が低い傾向にあることを確認した。また分化型胃癌におけるdbpAの発現パターンには特徴があり、腺管構造の底部において、dbpA強発現細胞が局在していた。この結果は、分化型胃癌においては、正常胃腺管のように、分裂能を有する細胞は腺管構造の底部に存在することを示唆している。
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