循環器疾患の末期像である心不全は、心ポンプ機能の破綻・心肥大の結果、心臓の収縮力や拡張力の低下をきたし、身体の組織に十分な血液を送れない状態である。心筋炎・心筋症はその有力な原因疾患である。チオレドキシン(thioredoxin)は、還元作用や抗酸化作用を示す酸化/還元(レドックス)制御蛋白のひとつである。既に申請者らは、ラットでの自己免疫性心筋炎モデルで、活性酸素の過剰産生と反応性のチオレドキシンの心筋内でのoverexpressionを明らかにした。さらに、チオレドキシン・トランスジェニックマウス心筋炎での治癒過程での骨髄由来の再生心筋の存在と、その再生心筋が心機能保持に働いていることが明らかになりつつある。今回我々は、レドックス制御系が心筋再生に関与しているとの予備的結果から、チオレドキシン・トランスジェニックマウスを用い、心筋炎・心不全に対するレドックス制御を介した心筋再生療法の可能性を検討した。チオレドキシン・トランスジェニック(TRX^+)マウスの細胞はwild type(TRX^-)に比し長寿であることが既に報告されているが、培養系でCSC(心幹細胞)の存在、分化能、成人型への転化能を検討した。 (i)培養胎児マウス初代心筋(TRX^+、TRX^-)を用い、CSCを既法に則りFicoll法で分離・培養した。得られた細胞中のCSCの存在は、sca-1^+、c-kit^+を指標にしたFACS分析で確認した。 (ii)TRX^+およびTRX^-マウスのCSCの成人型心筋への転化能を、生化学的マーカー(ミオシンアイソザイム、BNP、トロポニン)で検討するとともに多分化能として血管内皮細胞系への分化をCD31^+、血管平滑筋への分化をα-アクチンの発現で解析した。
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