研究概要 |
本研究においては、心不全発症および進展における脳-脂肪細胞系の関与を基礎的に検討し、それを標的とした新しい心不全の予防、診断、治療法を開発することを目的とし研究を進めた。 昨年度までに、ダールラット心不全モデルを用いて、代償性心肥大期(LVH)と心不全期(CHF)においてコントロール(低食塩食ラット;LS-11WとLS-17W)とにおいて、脳-脂肪細胞系に関与する心筋mRNA発現profileを検討した。CRHR2の主なリガンドであるUrocortin IIは心不全期に活性化するがその受容体CRHR2はdown-regulationされる。一方、APJとそのリガンドApelinは心不全期には共にdown-regulationされる。Urocortin II-CRHR2システム、Apelin-APJシステム共に心筋に対して陽性変力作用を持つことが明らかになっているが、心筋局所での動態制御は異なることが明らかになた。更に心筋Apelin-APJシステムの制御機構を検討した結果、アンギオテンシンレセプター拮抗薬(ARB)により、この系の発現が特異的にpreserveされることを見いだした(Iwanaga Y, et. al. JMCC 2006)。心不全治療におけるARBの有用性をsupportする機序のひとつの可能性であると考えられた。 本年度は、以上の結果から、Apelin-APJシステムに関して、apelinの慢性投与効果の検討を行なった。in vivoでapelin-13を心肥大期の11週齢のダールラットにosmotic pumpを用いて投与した(2μg/kg/day)。Apelin-13投与は心不全生命予後を有意に延長した(21週生存率;18.2%から77.8%)。心エコーによればApelin投与により左室のリモデリングおよび収縮能低下が抑制されていた。また、in vitro作用の検討の結果は、apelinが心筋細胞に対して肥大を惹起せず、また肥大の抑制効果も認めなかった。以上により、Apelin-APJ系の修飾が新規心不全治療となる可能性が示された。しかしながらその作用期所に関しては不明な点も多く今後はその解明を進める。特にAPJのノックアウトマウスを入手しそれを用いた検討を行なっている。
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