伸展刺激感受性チャネル(TRPV2)の筋変性疾患における病態的意義を確立するとともに治療創薬標的としての可能性を検討した。TRPV2の細胞膜発現の増加および活性化が筋変性と密接に関わるという著者らの報告を確定するため、TRPV2のイオン透過部位に変異を導入したチャネル活性のない変異体をアデノウィルスベクターを用いて心筋症ハムスター(BI014.6)骨格筋細胞へ導入したところ、外液Ca^<2+>濃度依存性Ca2a^<2+>流入の上昇が抑制され、伸展刺激による筋細胞からのクレアチンキナーゼ(CK)の漏出も抑制された。同様にこのベクターを用いてBI014.6骨格筋へTRPV2変異体を導入したところ組織HE染色で観察される筋変性の減弱が認められ改善効果が示された。骨格筋特異的にTRPV2変異体を過剰発現させた(このマウス骨格筋は正常であった)マウスをmdxと交配させてmdxのTRPV2活性を抑制したマウス(4、10、22週令)を作成したところ、このマウスはmdxに比し血中CK活性の有意な減少と組織ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で観察される筋変性の減弱、中心核の減少が認められた。またこのマウスはグリップテストによる筋機能評価もmdxに比べて改善された。さらにTRPV2に対する阻害剤のスクリーニング法を確立し、いくつかの候補薬物を同定した。細胞骨格系蛋白質欠損による筋ジス筋細胞はTRPV2の膜発現が亢進しその活性を抑制することにより筋変性が緩和されることが明らかになった。 今後TRPV2阻害治療の適応範囲の検討を行うとともにTRPV2阻害候補薬物をもとにインシリコで薬物をピックアップしてより有効な阻害剤をスクリーニングし、病態改善効果を調べる予定である。
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