これまで血管内皮細胞にHLH転写因子Id1を過剰発現させることにより、増殖能、遊走能が増強され、in vitroおよびin vivoでの血管新生作用が亢進することを解明してきた。さらに、Id1過剰発現により血管内皮細胞でのアンギオポイエチン-1の発現増強がもたらされ、その自己および傍分泌作用により血管新生を誘導していることを明らかにしてきた。しかし、Id1の血管新生作用に関する詳細な分子メカニズムは、これまでの先行研究からの知見も含め不明な点が多かった。 本年度の研究において、血管新生におけるId1の新規制御メカニズムの一つとして、以下の点を明らかにした。 1)マトリゲル上でのin vitro血管新生評価系において、血管形態形成過程においてId1は核から細胞質に局在を変化させる(核-細胞質移行)。 2)Id1の核-細胞質移行にはCRM-1/exportinシステムが関与し、cAMP-protein kinase A(PKA)系にて制御を受けている。 3)血管形態形成過程におけるId1の核外移行には、Id1の5番目のセリンのリン酸化が重要である可能性がある。 現在、血管新生過程におけるId1の核-細胞質移行の意義に関し、以下の点を中心に解析を進めている。 1)Id1の核-細胞質移行により制御される血管形成過程は何か?(内皮細胞の増殖→形態形成への形質変換制御に着目し、in vitroにて解析中) 2)Id1の核-細胞質移行により制御されるターゲット分子やその下流遺伝子は何か? 3)血管内皮細胞分化過程にもId1の核-細胞質移行による制御機構が関わるか?
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