これまで血管内皮細胞にHLH転写因子Id1を過剰発現させることにより、増殖能、遊走能が増強され、in vitroおよびin vivoでの血管新生作用が亢進することを解明してきた。本研究においては、Id1の血管新生作用に関与する分子メカニズムに関し検討を行った。H18年度の研究において、1)マトリゲル上でのin vitro血管新生評価系において、血管形態形成過程ではId1は核から細胞質に局在を変化させ(核-細胞質移行)、2)この核-細胞質移行にはcAMP-protein kinase A (PKA)系にて制御されるCRM-1/exportinシステムが関与しており、3)Id1の5番目のセリンのリン酸化が重要である可能性があることを示した。これにより血管新生におけるId1の新規制御メカニズムの一つとして、血管形態形成過程にけるId1の上流の調節機構を見出し得た。平成19年度の研究においては、特に、Id1結合ターゲット分子、下流分子とその生理的意義に焦点を絞り研究を行った。その結果、1)マウス大動脈片のタイプ1コラーゲン内3次元培養系による血管新生評価系にて、新生血管内皮細胞におけるId1の核内発現強度は均一でなく、その発現には空間的周期性があることが解った。血管形成過程にてのこのような制御を受ける分子としてNotch/Hey経路が示されていた為、Id1とNotch/Hey経路のクロストークを推定し培養細胞系にて検討を行った結果、2)Id1はHLH転写因子Hey2を含めたいくつかの重要なNotch下流分子を負に制御していることが解った。3)さらに、その制御にはHey2の発現上昇が関与していた。これらの結果はId1とNotchシグナル経路のクロストークによる新規血管新生制御メカニズムの可能生を示唆するものである。また、Notch/Hey2経路は動脈内皮細胞分化にも重要であることが解っており、Id1が同経路を制御することで動静脈分化機構にも関与する可能生をも示唆するものであり大変興味深い知見であると考えられる。
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