各種の心血管系ストレスにおけるシグナル伝達分子としてのカルシウム感受性チロシンキナーゼPYK2の役割を個体レベルで下記の事柄を明らかにした。1)ApoE/PYK2ダブル欠損マウスによる動脈硬化モデルで動脈硬化の軽減を見出した。その機序として、血管壁でのサイトカイン産生、血管内皮細胞での接着因子の発現の低下とそれに起因する炎症細胞の局所への浸潤低下がみられた。(2)大腿動脈結紮による下肢虚血モデルや、冠状動脈結紮による心筋虚血-再還流モデルでは、PYK2欠損マウスでは虚血下肢での血流回復の低下あり、それらは新生毛細管数の減少があることを見出した。その機序は培養血管内皮細胞系および培養心筋細胞を用いて解析を進め、増殖・遊走・アポトーシスなどの細胞機能に異常が見出された。その分子メカニズムとしてPYK2が活性化するSrc型キナーゼ活性・細胞内Ca動員・PI3-Kinase活性・低分子量Gたんぱく質Rho/Rac・MAP Kinases・Kvs/KirsなどのKイオンチャンネルなどの分子群で機能異常がみいだされた。(3)大動脈結紮による心圧負荷モデルではアンギオテンシンII受容体作用が減弱し、あるいはインテグリン作用が傷害されることで、心筋肥大反応が減弱した。(4)大腿動脈ワイヤー障害による内皮細胞障害モデルでは、内膜擦過障害後の内皮細胞による再内皮細胞化の促進と内膜増殖抑制がみられた。(5)心血管ストレス環境下で産生される代表的なサイトカインであるアンギオテンシンIIの皮下埋め込みポンプによる持続注入負荷モデルでは、心筋肥大反応や血管平滑筋増殖の抑制が見られ、その分子機序は、アンギオテンシン情報伝達系に異常がみられた。以上より、PYK2は心血管ストレス病変形成に必須の役割を果たすことがわかった。
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