研究概要 |
肺高血圧症は依然として有効な治療法が確立されていない難治性疾患である。本研究は、「肺の主要な細胞外抗酸化酵素である細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(Extracellular Superoxide Dismutase : ECSOD)の遺伝子導入が、肺高血圧症の動物モデルであるモノクロタリン誘発性肺高血圧症の進展を予防する」という仮説を証明し、肺高血圧症に対する新しい治療手段を提示することを目的とした。 雄Sprague-Dawleyラット(8週齢,275-300g)にモノクロタリン皮下注射(40mg/kg)を行い,同時にvehicle(対照群)及びAdenoウイルスに組み込んだβ-galactosidase(ウイルス対照群)、ECSOD(ECSOD群)を経気管的に投与した。この方法により免疫染色で気道表皮細胞,肺胞表皮細胞での遺伝子発現を確認し,ELISA法で肺組織,気管支洗浄液,血漿での発現を証明した。両対照群では、28日目に肺微小動脈のリモデリングを伴った右室収縮期圧上昇及び右室肥大を認めた。一方、ECSOD遺伝子治療群では,血管リモデリング,右室収縮期圧上昇,右室肥大進展を統計学上有意に抑制した。また、本研究は、肺高血圧症の進展予防機序として,(1)肺動脈血管平滑筋細胞の増殖はECSDO治療群で有意に抑制されること、(2)モノクロタリン誘発性肺高血圧症の進展初期に増加した肺組織中の活性酸素種(8-isoprostane)はECSOD治療群で有意に減少されることを示唆した。 以上より,本研究はECSOD遺伝子治療が、ラットのモノクロタリン誘発性肺高血圧症の進展を予防することを証明した。経気管ECSOD遺伝子治療が肺高血圧症に対する新しい治療手段となる可能性を示唆していると考えた。加えて,肺高血圧症と酸化ストレスの関係は十分な解明がなされていないのが、本研究は肺高血圧症進展過程で酸化ストレスが重要な役割を担っている可能性を証明していると考えられた。
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