当該年度では、最初に転写因子Nrf2の急性肺傷害、および肺線維症に対する防御作用について動物モデルを用いて検討した。実験には野生型マウス、および同系のNrf2欠損マウスを使用した。Nrf2欠損マウスでは野生型マウスに比し、カラゲニン誘発性急性肺傷害、およびブレオマイシン誘発性肺線維症の有意な増強が見られた。野生型マウスではカラゲニンおよびブレオマイシン投与後の肺組織において抗酸化ストレス酵素、代謝第2相酵素、アンチプロテアーゼ、スカベンジャー受容体などの生体防御分子が広く誘導されたのに対し、Nrf2欠損マウスではこれらの誘導が見られなかったことより、Nrf2はこれらの分子の発現誘導を介して急性肺傷害、肺線維症に防御的に働くものと思われた。野生型マウスにおいてこれらの分子は主としてマクロファージで誘導されたことより、Nrf2を介した防御機構は、肺組織ではマクロファージで作動するものと思われた。Nrf2の活性化は細胞質アクチン結合蛋白であるKeap1によって負に制御されていることがわかっている。従って、マクロファージ特異的なKeap1の抑制は同細胞におけるNrf2活性化を導き急性肺傷害や肺線維症を抑制するものと思われる。現在、この仮説を証明するために、リゾチーム遺伝子プロモーター制御下にKeap1をノックアウトする条件付ノックアウトマウスを作成し、次年度においてカラゲニン誘発性急性肺傷害およびブレオマイシン誘発性肺線維症に対する影響を検討する予定である。
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