急性肺損傷や特発性肺線維症では酸化ストレスに起因する炎症増幅や組織損傷が病態形成に重要な役割を演じる。生体は酸化ストレスに対し様々な防御系を有しているが、Nrf2を介した転写誘導系は細胞レベルの防御系の中核をなしている。当該研究では、Nrf2による急性肺損傷、肺線維症防御作用を動物モデルで検証した。実験にはC57BL/6野生型マウスと同系のNrf2欠損マウスを使用した。マウスにブレオマイシンを気管内投与することで急性肺損傷、および肺線維症モデルを作成し、その程度を比較するとともにNrf2標的遺伝子の発現解析を行った。Nrf2欠損マウスではブレオマイシン投与後の生存率が野生型マウスに比べ有意に低下していた。同マウスでは投与後1日、および3日の肺浮腫、好中球性炎症が充進しており、更に投与後28日の肺線維化も顕著であった。野生型マウスの肺組織では投与後1日より様々な抗酸化ストレス酵素、グルタチオン合成酵素、アンチプロテアーゼの発現誘導が肺胞マクロファージ中心に認められたのに対し、Nrf2-/-マウスではこれらの誘導が見られなかった。一方、Nrf2欠損マウスではケモカインやTGF-βの発現が有意に充進していた。Nrf2欠損マウスのT細胞では転写因子GATA3の発現充進とともに、CXCR3発現細胞の低下、CCR4発現細胞の増加を認め、Th2偏移が生じているものと思われた。以上より、Nrf2を欠失する動物は、外来因子に対する急性肺損傷、および肺線維症の発症感受性が著明に亢進していることが明らかになった。その機序として、抗酸化ストレス酵素やグルタチオン合成酵素の誘導能の低下による酸化ストレス応答の低下、酸化ストレスによる転写因子活性化を介したTh2偏移が考えられた。Nrf2はマクuファージで作動する防御系であり、急性肺損傷および肺線維症の分子標的として今後の応用が期待される。
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