研究概要 |
肺腺癌とその前癌病変のatypical adenomatous hyperplasia(AAH)のepidermal growth factor receptor (EGFR)遺伝子変異の解析を行った。AAH9病変の症例は全て女性、非喫煙者であった。肺腺癌31病変は25人から得られ、20病変は16人の女性、11病変は9人の男性から得られた。肺腺癌10病変は7人の喫煙者もしくは喫煙歴を有する患者から得られ、21病変は18人の非喫煙患者から得られた。Exon 19と21のEGFR遺伝子の変異は40検体中11例(28%,95%信頼区間15-44%)に認められた。AAHと肺腺癌におけるexon 19と21の遺伝子の変異はそれぞれ44%,23%(p=0.34)であった。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効果と関連があるEGFR遺伝子のexon 19のフレームシフト変異とexon 21の点変異は9検体(23%,95%信頼区間11-38%)に認められた。EGFR exon 18には変異を認めなかった。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤耐性と関連するEGFR exon 20(T790M)の遺伝子変異についても検討を行い、40病変中2病変(5%,95%信頼区間0-17%)に変異を認めた。この2病変はいずれも女性、非喫煙者の検体であり、他の遺伝子変異と共に検出した。このうち1例は、AAHでexon 19(D761Y)の点突然変異も有していた。他の1例は、肺腺癌でexon21(L858R)の点突然変異も認めた。次いで9例の多発病変について解析を行った。9例中6例で少なくとも一つの病変にEGFR遺伝子変異を認めた。この中で同一のEGFR遺伝子変異パターンを認めたものはなかった。1例は、exon 19(del E746-A750)の変異とexon 21(L861Q)の変異と異なる変異であった。他の2例は、1病変ではexon 20(T790M)およびexon 21(L858R)の変異、もしくはexon 21(L858R)の変異を認めたが、他の1病変では変異を認めなかった。AAHと肺腺癌を同時に認めた2例で、AAH病変のみにexon 19のフレームシフト変異を認めた。また別のAAHと肺腺癌を同時に認めた1例で両方の病変にexon 19(D761Y)の遺伝子変異を認めたがexon 20(T790M)の遺伝子変異はAAHの病変のみに認められた。EGFR遺伝子変異がAAHにおいても肺腺癌においても同程度に認められた。また多発病変を有する症例は、同一患者においても病変ごとに変異のパターンが異なっていた。
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