我々は、肺でNotchシグナルが活性化されると、basic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子のHesの転写が促進されること。その結果、HesがプロニューラルbHLH型転写因子Hash1を抑制し、神経内分泌の形質が抑制されることを明らかにしてきた。肺小細胞癌では、Notch-Hesシグナル系が抑制されており、その結果Hash1が過剰発現して神経内分泌の形質を生じていることを示してきた。最近、神経系前駆細胞の分化制御にNotch-Hesシグナル系とJak-Statシグナル系がクロストークし、HesがStat3のリン酸化を促進することが報告されている。肺癌細胞では、Jak-Statシグナル系の上流に位置するチロシンキナーゼ関連因子が過剰発現していることが以前より報告されている。しかしながら、正常肺や肺癌でのJak-Statシグナル系と直接関係する研究はほとんどされていない。今回我々は、肺癌細胞株を用いてStat3関連因子のwestern blottingを行い、小細胞癌、非小細胞癌ではstat3のリン酸化が異なり、非小細胞癌ではstat3はリン酸化されており、小細胞癌ではリン酸化されていないものが多いことがわかった。また、Hes1やMashl/Hashlの動態もStat3のリン酸化と関係があることがわかり、我々の得られたデータから、正常肺や肺癌でもNotch-Hesシグナル系とJak-Statシグナル系にクロストークがあることが考えられる。細胞分化においては、stat3が活性化するためにはリン酸化が重要で、その鍵となる因子の一つがHesと言うことがわかった来た。これらのことより、正常肺気道上皮細胞及び肺癌細胞の細胞分化・細胞増殖をJak-Statシグナル伝達系がNotchシグナル伝達系とクロストークして制御していることを示唆するデータが得られた。今後さらに、正常気道上皮細胞・神経内分泌細胞および肺癌細胞に見られる分化決定制御をしているNotch-Hesシグナル系とStatシグナル系の関わりを詳細に明らかにしていきたい。
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