研究概要 |
常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)はPKD1遺伝子あるいはPKD2遺伝子の異常を原因とする、最も頻度の高い遺伝性腎疾患である。今回私たちは、マウスならびにメダカを使用して薬剤投与実験可能なADPKDのモデル動物を作製することを研究の目標に定めた。 はじめに、テロメラーゼ(テロメア伸長酵素)欠損マウスとPkd1ヘテロマウスとの交配し、テロメアが短縮したPkd1ヘテロマウスを作製した。テロメアが短縮するとゲノムの不安定により体細胞変異が起こり、Pkdノックアウトマウス・ヘテロ接合体においてヒト類似の多発性嚢胞腎ができることが予想されたためである。しかし、第6世代まで解析したところ世代を経るにつれて嚢胞は多く形成される傾向が見られたが、モデルとなるような多発性嚢胞腎にはならなかった。 次に、安価で簡便に飼育可能なモデル動物として小型魚類であるメダカを用い、Pkd2遺伝子欠失変異体を遺伝子導入したトランスジェニックメダカを作成した。EF-1α-Aプロモーターにより構成的に導入遺伝子を発現する系統ならびにTet-On/Off誘導系を用いてドキシサイクリンを投与することにより遺伝子発現を調節する系統も作成した。その結果、欠失変異体の発現量にもよるが、さまざまな程度の嚢胞形成が認められた。中でも10μg/mlの濃度のドキシサイクリンに曝露し続けたTet-On誘導系を用いたTet-On Pkd2ΔC-EGFP系統は,ホモ接合体にすると約4カ月後にヒト多発性嚢胞腎に類似した表現型が認められた。これらのことから、欠失変異体はドミナントネガティブ的に働き、正常のPkd2遺伝子の機能を阻害することが示唆された。今後は、この系統をさらに解析し、薬効評価を行う予定である。
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