研究概要 |
慢性腎臓病(糸球体濾過量<GFR>60ml/min未満)に定義される人口は本邦にて2000万人超にのぼると累計されておりcommon diseaseとして再認識されている。慢性腎臓病患者は、将来的に腎機能低下が進行するのみならず、心血管イベント併発の危険性が指摘されており、より早期からの予防医療的措置が必要と考えられる。末期腎不全より血液透析・腹膜透析に導入される患者数は本邦にて年々増加しており、新規の慢性腎臓病治療法の開発が医療財政上からも急務である。種々の原疾患より末期腎不全に至るが、近年本邦では糖尿病腎症が第一位を占めている。一方、長期CAPDの合併症として腹膜炎・腹膜機能低下等が認められるが、限外濾過不全を来した腹膜では間質の線維化/血管新生等の腹膜血管の異常と腹膜硬化を認め、その進展抑制のための新たな治療法の開発が必要である。これまでに、我々は血管新生抑制因子tumstatin peptide, endostatin peptideの糖尿病腎症における治療効果を報告してきた。Vasohibinは内皮細胞より血管新生促進因子VEGF刺激により産生される初めての血管新生抑制因子として同定され、生体内胞での血管新生negative feedbackを司る。小分子物質NM-3は血管新生抑制作用を介して腫瘍増殖・関節リウマチを抑制するが、経口投与可能で海外にて固形腫瘍患者を対象として臨床試験が進行している。 今年度は、新規治療法開発の観点に立ち、2型糖尿病モデルdb/dbマウスにおけるNM-3投与による腎症変化の抑制効果を観察した。NM-3投与により高血糖、血圧等は影響されなかったが、糸球体肥大・アルブミン尿の抑制効果を認めた。また、db/dbマウスにて観察されたCD31陽性糸球体内皮細胞領域増加・糸球体内F4/80陽性単球/マタロファージ浸潤、腎でのケモカインMCP-1発現増加、線維化促進因子TGF-β発現増加はNM-3投与により有意に抑制された。さらに、腎での血管新生促進因子VEGF発現増加,Angiopoietin-2発現増加がNM-3投与により有意に抑制され、糸球体濾過障壁維持に重要な役割を果たすスリット膜構成蛋白nephrin発現の回復効果がNM-3投与により観察された。培養メサンギウム及びpodocyteを用いた検討にて、NM-3がこれらの細胞に直接作用し高糖濃度下におけるVEGF,TGF-βの発現増加を抑制し得た。以上の検討結果はDiabetes誌に掲載された。 一方、chlorhexidine gluconate腹腔内投与により惹起した腹膜硬化マウスモデルにてendostatin peptide皮下持続投与による腹膜硬化抑制効果を観察し得た。炎症細胞浸潤、腹膜線維化、VEGF/TGF-β発現増加のendostatin peptideによる抑制効果を観察し得た.さらに、Vasohibin発現アデノウィルスベクターの静脈内投与により、血清中のvasohibin濃度の増加を認め、さらに腹腔内投与により腹膜組織でのvasohibin発現増加を認めた。現在、1型糖尿病腎症モデル、腹膜硬化症モデルにて治療効果を観察中である。
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