研究概要 |
我々は腎臓尿細管上皮細胞の上皮性ナトリウムチャンネル(ENaC)に特異的なユビキチン化酵素であるNedd4Lに着目して、本態性高血圧症の成因を解明してきた。これまでに、(1)ヒトNedd4L遺伝子産物の分子多様性と、evolutionary new isoform(Isoform I)を産生するSNPの発見。(Ishigami T, Dunn M, et. al. JHG 2002)(2)Nedd4L遺伝子のラットでの分子多様性の発見と、遺伝性食塩感受性高血圧症との関連。(Umemura M, Ishigami T, et. al. BBRC 2006)(3)本邦人での関連研究。(Ishiami T, et. al. GGI 2007)(4)Isoform Iがタンパクレベルで他のisoformに対するdominant negative効果によりENaCの発現を抑制している。(Araki N, Ishigami T, et. al. Hypertension 2008)ことを明らかにしてきた。既知のように、心筋細胞には、種々のイオンチャンネルが存在し、心筋活動電位の形成に携わっており、こうしたイオンチャンネルの遺伝的な異常で致死的な遺伝性不整脈が発症する。なかでもSCN5A遺伝子により発現するナトリウムチャンネルの異常は、Ioss of function型のBrugada症候群、gain of function型の遺伝性QT延長症候群をもたらすことで知られている。SCN5Aは、それぞれ6つの細胞膜貫通部位をもつ相同性の高い4つのdomainからなるタンパク分子であるが、近年、細胞質内のC端に存在する複数のコンセンサス配列のうちひとつが、Nedd4LのWWドメインが特異的に結合するPYモチーフであることが明らかになり、ENaC同様ユビキチン化による発現の制御を受けていることが判明した。本研究は、このような、心、腎のイオントランスポーターに共通する分子制御メカニズムの存在が背景にある。以上の結果から、ヒトNEDD4L遺伝子は、本態性高血圧症の有力な候補遺伝子であり、common variantによって発現が認められる新規C2ドメインを有するI型(isoform I)Nedd4Lが、本症の発症、食塩感受性に関与している可能性が示唆されており、今後in vitro/in vivoでの解析を行い、エビデンスの集積を図っていく。
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