研究概要 |
NaXイオンチャネル欠損マウスで口渇の減退が報告されている。一方我々も,TRPV4欠損マウスでは高浸透圧感受に対するバゾプレッシン反応に異常が認められることを先に報告した。本研究では「NaXとTRPV4が共同で高浸透圧を感受し口渇を感じる」との仮説を立て検証した。最初にin vivo生理実験として,絶水によりTRPV4欠損マウスと野生型マウスとに口渇を惹起させ,血漿浸透圧および絶水解除後の飲水量を比較した。野生型に比較しTRPV4欠損マウスの血漿浸透圧は若干低く飲水量には少ない傾向が認められた。次にin vitroでの検討として,神経細胞Neuro2a株をクローン化し,PCRによりTRPV4とNaXとTRPV1mRNAの発現の有無で分類した。各クローンの細胞内Caを蛍光色素を指標に測定した結果,TRPV4の検出される群でのみ高浸透圧刺激後に細胞内Caは上昇した。TRPV4における低浸透圧感受のメカニズムとして,アラキドン酸の代謝産物によりTRPV4が活性化することが知られている。そこで,高浸透圧でのTRPV4活性化の機序においても同様の系が関与しているかを,アラキドン酸代謝系酵素阻害薬を用いて検討した。その結果,TRPV4のみが検出される神経細胞での細胞内Caの上昇は,高浸透圧刺激下においても低浸透圧刺激下と同様の阻害薬で抑制されたことから,少なくとも神経細胞株のモデル系では,TRPV4チャネルは,NaXとは独立に,高浸透圧でも低浸透圧感受と同じアラキドン酸カスケードを経由して活性化されうると考えられた。TRPV4欠損マウスにおける高浸透圧刺激下での生理機能異常を考え合わせると,生体内においても,TRPV4は低浸透圧感受だけでなく高浸透圧感受にも関与している可能性が示唆された。
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