本研究ではCre-loxPシステムを用いて、再生現象が最も盛んな近位尿細管S3セグメント特異的にLIF-gp130-STAT3シグナルの遺伝子を欠失または過剰発現させたマウスを作製し、尿細管再生における役割を解明することを目的として計画された。本年度は、近位尿細管S3セグメント特異的なCre発現トランスジェニック(Tg)マウスとCre存在下にLIF遺伝子が過剰発現されるTgマウス(LoxP-LIF)の作製を試みた。LoxP-LIFマウスについては、αMHC-Creマウスとの交配でスクリーニングをおこない、LIFの高発現を認めた3系統が確保できた。αMHC-Creマウスとの交配で、心筋特異的にLIFを高発現させると心臓において交感神経と副交感神経の分布が心不全型に変化し、LIFの心不全での重要な役割の一つであると考えられた。一方、近位尿細管S3セグメント特異的なCreマウスとしてAQP7-Cre Tgマウス、GGT2-Cre Tgマウスの作成をおこなったが、いずれも、近位尿細管S3セグメント特異的なCreの発現は認めず、当初の研究計画は達成できなかった。 上記のプロジェクトと並行して、近位尿細管S3セグメントに特異的なプロモーターであるGsl5遺伝子の下流にEGFPをつないだGsl5-EGFPTgマウスと、Gsl5遺伝子の下流にDTR(ジフテリア毒素受容体)をつないだGsl5-HB-EGF Tgマウスの解析を、東京都臨床総合研究所、関根美智子らとともにおこない、近位尿細管S3セグメントの尿細管障害、尿細管再生における役割を明らかにした。また、尿細管の障害のメカニズムとして、近年、尿細管細胞の間質myofibloblastへの形質転換(EMT)が着目されており、転写制御因子Snail1が腎臓の線維化において重要な役割を果たすことを示した。
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