進行性腎障害による末期腎不全から血液透析にいたる症例は、年間3万例を越え、慢性透析患者総数は約25万人に達している。その原疾患としての慢性腎臓病の新規治療法を開発するため、本研究では、種々の炎症性サイトカインの情報伝達に中心的役割を果たす転写調節因子であるNuclear factor-κB(NFκB)に着目し、その疾患進行における役割を細胞特異的に明らかとするために以下の研究を行った。先ず、NFκBの活性化抑制に作用する1κBΔNをCre-lox systemにより細胞特異的に発現するマウス、IκBΔNマウスが既に作製されていたことから、Cre-recombinaseを脂肪細胞、近位尿細管に特異的に発現させるために、AQP7のプロモーターを用いたAQP7-Creマウスを遺伝子操作により作製した。このマウスと、loxP-GFPマウスを掛け合わせ、GFPの発現部位を検討したところ、脂肪細胞に最も強い発現を見たが、腎臓では近位尿細管の一部の細胞にのみGFP発現を認め、さらに、肝臓など多臓器に弱いながらGFP発現を認めた。これは複数の系統を作製しても同様であり、AQP7-Creマウス開発を断念した。さらに、血管内皮に特異的にCre-recombinasを発現するTie2-Creマウスの供与を受け、IκBΔNマウスと交配させたところ、胎生致死であった。そこで、近年腎障害進行における役割が注目されている足細胞でのNFκBの役割を検討するため、足細胞特異的蛋白であるnephrinのプロモーター支配下にあるNeph-CreマウスとIκBΔNマウスを交配し、得られたdouble transgenic mouseにnephrotoxic serum nephritisを発症させたところ、野生型に比べ著しい病変の改善が認められた。本研究の結果より、腎炎の進行に、足細胞のNFκBが中心的役割を果たすことが証明された。
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