今回の研究では、IgA腎症患者の血清IgAl結合タンパク(IgAl-BP)中に病因に関る特定の、あるいはある一定の傾向をもった外来性抗原が存在するか否かを検討するために、Mass Spectrometry(MS)を用いて解析することを目的とした。患者と正常人から得られた血清よりジャカリンを用い抽出したIgAl-BPを1次元電気泳動し、全てのバンドについて比較した。その結果、IgA腎症で抗原を含め明らかな外来性抗原は認められず、IgAl、IgG、IgM、C4bp、ClINH、FN、apolipoprotein、α1MGなどの内因性蛋白のみが確認された。それらの蛋白をWestern blottingにて定量解析したところ、IgG、C4bpは正常人よりもIgA腎症患者において含有量は多く、扁摘ステロイドパルス治療により減少した。さらに、ゲル濾過カラムでIgA/IgA-BPを分子量毎に分画化したところ680kDa以上、680kDa、340kDa、170kDa周辺の位置にピークを認めた。既存の報告などから、当初患者では健常人より高分子量分画(polymeric IgAl-IC)の濃度が高くなることが予想されたが、差は認められなかった。しかし、同一患者で治療前後を比較すると680kDa以上の分画の濃度はむしろ上昇し、340kDa分画の低下、ならびに170kDa分画の上昇という傾向を認めた。Western blottingにて340kDaの分画中にIgGが確認され、それが治療後に減少することから、この分画にはIgAlのhomodimerとIgAl-IgG heterodimerが混在しており、治療によりhomodimerの減少ばかりではなくheterodimerの減少も考えられた。これらのことから、IgA腎症患者の病因としてIgA-IgG免疫複合体と抑制系の補体因子などが、重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
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