研究概要 |
糖鎖不全や多量体IgA-Immune Complex(IC)形成に関連するIgA分子の異常などが、IgA腎症の病因として議論されているが、この疾患の病因は未だ不明である。上気道感染がIgA腎症を増悪させることや、扁桃摘出(扁摘)の治療効果が高いことなどから、粘膜感染に関わる外来抗原の関与が注目され長年検討されてきた。しかし、糸球体IgA-IC中の疾患特異的抗原は明らかではない。特定の外来抗原がIgA-IC形成に関与するかを調べるために、IgA腎症患者血清からIgA-BP(binding protein)を抽出し、MS(mass spectrometry)によって解析した。IgA腎症患者(N=6)と健常人(N-=5)の血清を用い、ジャカリンにより分離されたIgA1/IgA1-BPを、1次元電気泳動後銀染色し、全分画についてMS解析をした。IgAの結合蛋白としてapolipoprotein、Ig heavy chain(α,μ,γ)、lightchain、Ig J chain、fibronectin、C1-INH(inhibitor)、C4bp(患者群に高頻度)、α1MG(microglobu-lin)を両群に認めたが、外来抗原は確認されなかった。本年度は特に、扁摘+ステロイドパルス治療前後の患者検体を2 dimensio-nal difference gel electrophoresis(2DDIGE)後にMS解析した。しかし、上述以外の新規結合蛋白は確認されなかった。そこで、治療前後でのIgAに結合する内因性蛋白の結合量の変化を、Western blottingにて検討した。IgA腎症患者におけるIgA1 binding IgG、C4-bp、C3の含有量は健常人に比し多く、治療後に減少した。特に、IgGの減少が顕著であった。今回の検討から、IgA1-BPにおける外来抗原は確認されず、むしろ内因性蛋白であるIgG、C4bp、C3などとIgA-ICを形成していることが考えられた。外来性抗原による感染は、むしろIgA分子の糖鎖異常などを惹起し、IgA自体を抗原化させ、IgGや補体成分などの内因性蛋白とのIC形成を促している可能性が示唆され、今後の更なる検討が病因解明と特異的治療に必要であると思われる。
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