近年、IgA腎症の発症機序に衛生仮説も含めたTh2型免疫反応の重要性が示唆されていることから、Th2型免疫誘導関連転写因子GATA-3遺伝子を導入されたトランスジェニック(GATA-3 Tg)マウスを用いてIgAの産生とメサンギウム領域への沈着機序の検討を行った。卵白アルブミン(OVA)とアジュバントとしてアラムを用いて腹腔免疫を行った場合、血清中のIgA抗体価は著明に増加したが、病理組織学的および尿所見からはIgA腎症を呈する所見は認められなかった。しかし、粘膜免疫にアジュバント作用を示すコレラトキシン(CT)を用い径口免疫を施した場合には、血清中のIgA抗体価の著明な上昇ばかりでなく、ヒトIgA腎症に類似したIgA・IgG・C3の沈着ならびにメサンギウム細胞の増殖を伴う基質の拡大を認めた。このIgA沈着機序に関わるサイトカインを検討するため、OVA+コレラトキシン経口摂取GATA-3Tgマウスのパイエル板・腸間膜リンパ節および脾臓におけるサイトカイン産生量をin vitroでのOVA再刺激にて検討した。(1)脾臓では、OVA単独経口摂取にてTh1型免疫反応に免疫寛容誘導された。この免疫寛容は恒常的TGF-βの産生によるTh1型免疫反応の抑制が誘導されたが、IL-4産生はむしろ亢進していた。(2)しかし、OVA+CT摂取で観察された寛容の破綻は、TGF-βの恒常的産生抑制とIL-2やIFN-γ産生といったTh1型免疫反応が回復していた。OVA+CTによる免疫寛容の破綻はIL-2依存的であり、この場合の免疫寛容はCD4+CD25+細胞によるanergyによるものと考えられた。しかし、OVA単独投与による免疫寛容はIL-2非依存的であり、Th2サイトカインであるIL-4産生亢進によるものと考えられ、免疫寛容の形態が異なると考えられた。 したがって、ヒトIgA腎症では急性期にTh1型反応、潜在期にTh2型免疫反応が働くというこれまでの知見と、今回の実験結果から、発症機序には粘膜免疫を介したTh1/Th2バランスの巧妙な制御が示唆され、本マウスを用いたシステムはIgA腎症の起因物質の同定やより詳細な発症機序を解析する有用なツールとなることが明らかにされ、本研究課題の目的を遂行することが出来た。
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