様々な疾患により腎組織は荒廃し、腎機能は低下、最終的には尿毒症に至るが、この過程には、疾患特異的なものばかりでなく、様々な腎疾患に共通する異常がみられる。本研究では、傷害された腎組織での血管系再生に焦点をあて、その異常と病的機序、治療の可能性を検討した。 腎臓亜全摘モデルラットでは、腎機能障害の進行とともに血管系の傷害も進展するが、この傷害は血圧非依存性の部分もあり、尿毒症自体が血管傷害性を有している可能性が示唆された。その後の検討では、貧血、高P血症、高PTH血症が心血管系のremodeling異常に関与していること判明し、また血管新生を司る血管内皮前駆細胞(EPC)の異常が確認された。前者の異常は、エリスロポエチン製剤の投与や食餌療法、副甲状腺摘除、薬物治療による是正により、心血管系remodeling異常、腎臓内血管傷害が改善することが確かめられた。一方、EPCの異常は、尿毒症ラットではその数の低下ばかりでなく、その機能異常も認められた。透析患者においても末梢循環血液中のEPC数の減少がみられ、その減少の程度と個々の患者の心血管イベント(脳血管障害、心血管傷害、末梢動脈疾患)との関連が認められた。つまり、末期腎不全患者では循環血液中EPCが心血管イベントのリスクファクターである可能性が示唆された。また、EPC減少とエリスロポエチン投与量には統計学的には有意には至らないが、負の相関関係の傾向が認められた。 これらの結果から、腎不全病態下では貧血、様々な動脈硬化促進因子に加え、EPCの量的、質的異常による血管新生の低下が加わり、腎組織での虚血状態が遷延、悪化することが、腎不全進展において一定以上の役割を果たしていると推察された。
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