研究概要 |
ヒト近位尿細管上皮細胞を用いたバイオ人工尿細管を開発するために、安全で重層化しない初代培養細胞を大量に増殖させるための培養法を試行し、以下の結果を得た。 1.細胞周期を停止させる調節因子であるRb, p53,p21,p16に対するアンチセンスオリゴDNAをヒト近位尿細管上皮細胞の初代培養の培地中に10μMの濃度で添加することにより、その分裂寿命を約2倍に延長できることを明らかにした。すなわち、アンチセンスオリゴDNAの投与の無い場合、あるいは標的の無いアンチセンスオリゴDNA(ネガティブコントロール)が投与された場合、ヒト近位尿細管上皮細胞は約8回の細胞分裂を行った後に老化、細胞死を迎えるが、上記の調節因子に対するアンチセンスオリゴDNAの存在下では、細胞の老化と死は14〜19回の細胞分裂の後に起こった。このような細胞分裂寿命の延長現象は、特にp16に対するアンチセンスオリゴDNAを用いたときに顕著であった。この培養手法により、ヒト近位尿細管上皮細胞の初代培養から、これまでのおよそ1000倍の数の細胞を回収することが可能となったことは、バイオ人工尿細管の開発に大きく寄与すると思われる。また、100〜150日間に亘る培養期間中、アンチセンスオリゴDNAの培地への投与は最初の50日間に実施されるだけで、全期間の投与と同様の分裂寿命延長効果を現すことを見出しており、大量細胞培養の経済面にも寄与すると考えている。 2.ヒト近位尿細管上皮細胞を株化するために初代培養細胞へテロメラーゼ遺伝子の導入を行った。抗生物質による遺伝子導入細胞の選択直後においては活発な細胞増殖が観察されたが、培養が約10週間を過ぎる頃から細胞の肥大化と増殖速度の低下が起こり、その後死滅した。これまでに報告された他のヒト細胞種の場合と同様、ヒト近位尿細管上皮細胞の株化はテロメラーゼ遺伝子の導入だけでは難しいと思われる。
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