バイオ人工尿細管の作製に必要充分量のヒト近位尿細管上皮細胞を用意するために、当該細胞の初代培養の分裂寿命を延長することで、大量の細胞を獲得する技術の確立を目指した。その手法として、細胞周期の停止に関与する因子に対するRNA干渉法により、その機能を抑制することを試みた。前年度のアンチセンスオリゴDNAによる研究と同様の標的遺伝子(p53、Rb、p16INK4A)に対するsiRNAを用い、初代培養をおよそ1〜2週間おきに50nMの濃度で処理して継代を続けたところ、p53とp16INK4Aに対するRNA干渉により、35回以上の分裂回数(population doublings)を得ることができた。陰性対照siRNA処理あるいは非処理のヒト近位尿細管上皮細胞ではその分裂寿命はおよそ15回であったので、RNA干渉により2の20乗(約100万)倍の細胞が得られる計算となり、バイオ人工尿細管の作製に使用する近位尿細管細胞の獲得には一応の目途がついた。一方で、ヒト腎より得られた多種の細胞集団をそのまま培養した後に中空糸に播種して作製した人工尿細管デバイスをヤギに接続して体外循環を行い、尿細管機能評価の条件設定を試みた。中空糸内部には濾過血漿を流し、外部には血液を流して物質の移動、リーク率、水分の再吸収などを測定しながら、約2週間の体外循環を維持する条件を設定した。以上の成果により、実際にヒト近位尿細管細胞を播種したバイオ人工尿細管デバイスを作製し、動物を用いた体外循環によりそのデバイスの尿細管機能の評価を行う系に必要な基礎的な技術が確立された。
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