研究概要 |
現行の透析療法に欠けている尿細管機能を補うバイオ人工腎臓システムに十分な量の腎尿細管細胞を供給するために、ヒト近位尿細管上皮細胞の初代培養の分裂寿命をアンチセンステクノロジーを用いて延長する技術を開発した。細胞周期の調節遺伝子(p53, RB, p16, p21)に対するアンチセンスオリゴDNAの添加はヒト近位尿細管上皮細胞初代培養の分裂寿命の延長効果を示し、通常の約1000倍の細胞収量を可能にした。さらにp53およびp16に対するRNA干渉法による発現抑制では、より長期の分裂寿命の延長が可能であり、約6700万倍の細胞が回収できることを明らかにした。これらの手法によりウイルスや発がん遺伝子など臨床応用に問題のある方法を使わずに、通常の細胞分裂回数の上限を超えて増殖可能となった初代培養細胞は、元の近位尿細管上皮細胞に特徴的な性質を維持し続けており、バイオ人工腎臓システムへの利用に適していると考えられる。一方で、ヒト腎より得られた多種の細胞集団をそのまま培養した後に中空糸に播種して作製した人工尿細管デバイスをヤギに接続して体外循環を行い、尿細管機能評価の条件設定を試みた。中空糸内部には濾過血漿を流し、外部には血液を流して物質の移動、リーク率、水分の再吸収などを測定しながら、約2週間の体外循環を維持する条件を設定した。以上の成果により、実際にヒト近位尿細管細胞を播種したバイオ人工尿細管デバイスを作製し、動物を用いた体外循環によりそのデバイスの尿細管機能の評価を行う系に必要な基礎的な技術が確立された。
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